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地球の未来を救おうなどというのは、だいそれたことだと彼は思っていた。
彼は毎夜、同じ夢を見る。地球が、見知らぬ宇宙艦隊に攻撃され、破滅する悪夢。これまで、無用の長物でしかなかった予知能力。それが悪夢となって男を悩ませていた。
あまりの恐ろしさで夜中に飛び起き、かたわらで眠る妻を驚かせてしまったことなど、一度や二度ではなかったのである。
連邦軍には、最大最悪の欠陥があった。もし、彼の見る予知が当たり、謎の宇宙艦隊が攻撃してきたら、その欠陥を抱えている限り、連邦軍宇宙艦隊はひとたまりもないのだろう。国防省に勤務している彼には、そのことが判っていた。
少しでも、未来が変えられたら……毎夜、見つづける悪夢から逃れられるかもしれない。自分自身の苦痛を和らげるための発想。それが、最大最悪の欠陥を告発することだったが、その行動が煙たがられ、家族を危険にさらす結果となった。
（怜那は『殺されるなら一緒に逝こう』と言ったが……）
できることなら、生まれたばかりの息子のためにも、妻には生き延びてもらいたいと、彼は願っていた。今更ながら、後悔の念が彼を襲う。
「後悔なんて、私の好きになったあなたに、ふさわしくないわ」
不敵に笑いながら、彼の妻である彼女は言った。後悔するなと言われても、危険が目前に迫っている以上、自分の選択が正しかったのだろうかと、彼は思い悩んでしまう。
（もしものとき、連中は息子を見逃すだろうか？）
「大丈夫よ。私達の息子は、絶対死んだりしない」
彼の心配を見透かしたように言う彼女に、彼はいぶかしげな表情を作る。彼女は、息子が死なないと確信しているのか、自信一杯であった。
そして二人は、児童保護施設の前に立つ。もう、一刻の猶予もない。妻の一族の手をも借りて、打てる手はすべて打った。息子の安全を確保したところで、施設に息子を預け、彼等は逃げるように立ち去った。
暗殺者の魔の手が、二人の心臓にまでたっする。その死の瞬間、彼は未来を見た。
これまで見てきたのとは、別のヴィジョンが頭に浮かぶ。それは、次々と場面を変えていった。
最初は、巨大コンピュータの前に立つ二人の少年。建造途中の宇宙戦艦。漆黒の宇宙空間に浮かぶ航宙艦のブリッジに立つ、最初に見た二人の少年の成長した姿。そのうちの一人が、彼の存在が判っているように彼の方を見る。
───あなたの見た、地球が破滅する未来は必ず変わる。あなた方が、私達の存在が消されないように、守ってくれたから……だから、安心してください───
青年が、そう言ったように感じた。彼はもう、何も考えられない。ただ、漠然と判ったのは、これが予知夢ではないこと。彼が心安らかに逝けるよう、未来の誰かが時空を越えてメッセージを送ってくれたのだろうということだった。
宇宙暦七〇〇年・夏。国防省に勤務している男とその妻が、他殺死体となって発見された。警察の必死の捜査にもかかわらず、犯人は不明。後に残されたのは、児童保護施設に預けられていた赤ん坊だけ。やがてその子も、子供のいない夫婦に引き取られていった。 迷宮入りの様相をていしていた、その殺人事件も一応の決着をみた。犯人らしい男が、連邦軍のＭＰの手で拘束されたのである。男は、殺された夫婦の親友であった。公式発表では、軍事物資横領の罪で逮捕・拘禁し、取り調べをした過程で自白したという。その男も、正式な裁判を受けることもなく、獄中で死亡したのだった。
<<To be
continued…>>
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